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「淵と影」

The Depths and Shadow

○本歌

「おりたちてかげをも見ばやわたり河しづまむそこのおなじふかさを」(藤原定家・256)

「今ぞしるあかぬ別れのなみだ河身をなげはつる恋のふちとも」(藤原定家・377)

「かきやりしその黒髪のすぢごとに打ふすほどは俤ぞたつ」(藤原定家・2507)

​「おしなべて世はかりそめの草枕むすぶ袂にきゆる白露」(藤原定家・177)

○コンセプト


藤原定家卿和歌より男の立場から詠まれた恋歌などを本歌として、永遠に続く後朝の苦しみ故に恋死した織女の亡き幻影を、天の川の淵で見つけた牽牛を描きました。


形見に受け取った衣に顔を埋めると、まだ仄かにやわらかい肌のにおいがする。
彼女を腕に抱きながらかきやった黒髪の、指のすきまからこぼれ落ちる感触がする。
あまりにもはっきりと彼女を思い出すので、追いかければまだ間に合うような気がして、とうとう天の川にさまよい出てしまった牽牛。
鵲の爪跡を踏んで、底なしの淵を覗きこむと、ぐにゃぐにゃとゆれる己が影の内側に織女の姿が重なって見える。
いつだったか、彼女の小さな口から不穏な言葉を聞いたっけ。
私はそのときの、彼女の白い歯が大変おそろしかったことを覚えている。
目じりから溢れた白露の一滴が地上に到達する頃、季節は夏の青葉をあかく染めはじめる。

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