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大空の月の光し清ければ 影見し水ぞまづ凍りける(古今和歌集・冬歌・316)
今夜大気は澄みわたり
大空を照りゆく月は冴え冴えとひかり輝いている。
ごらん
そのあまりの清らかさに
月影を映した水が、あらゆる夜の命のなかで
一番最初に凍りついたよ。
(なんてすきとおる月の結晶だ)
そして次に凍りついたのは
私の両足とこの目のようなのだ。
あまりにもするどく光る美しさに
私はすっかり圧倒されて、もう一歩も動けない。
皆が寝静まった
誰も知らない
この異質な夜の中でひとり・・・。
​これは、私がもっとも愛する和歌のひとつです。本当に美しいです。
この和歌が作り出す世界には、宇宙と神様がいます。
胸にじんとつきさすようなこの感動に、私はなんども救われてきました。
​何度も何度も・・・。

 

 

わが君は千代にやちよにさざれいしのいはほとなりて苔の生すまで
敬愛します我が君は、どうか千年も万年もご長寿でめでたくございますように。
小さなさざれいしが、やがて大きな岩となるまでに成長し、やがてその力強い岩肌に緑深い苔が生え覆うまでに。とわにましませ。
​国家「君が代」の原歌。
さらに、本歌として万葉集228「いもが名はちよにながれむ姫島の小松が末(うれ)に苔生すまでに」がある。
公式な場面でのことほぎの歌が、憐れな亡骸に対する鎮魂歌と関連しているということが、私には不思議に感じられます。
当時の死生観との隔たりなのでしょうか。

 

しるしらぬ なにかあやなくわきていはむ思ひのみこそしるべなりけれ
あなたは私のことを、下簾の隙間よりかすかに見ただけですと仰いますが、私を見知ったとか見知らぬとか、どうしてそのような無用な問答をなさるのですか。
そんなことはどうでもよいのです。
もえる火のようなあなたの心をごらんなさい。
ただ本当の思いだけが、ゆきまどうあなたに進むべき道を教えてくれるでしょうから。​

 

 


あかずしてわかるるそでのしらたまを君がかたみとつつみてぞ行く
叶うことなら、私はもっとたくさん、あなたとこうして親しく語らっていたいのです。
しかし今、お別れの時間となってしまいました。
名残惜しさのあまり、私の袖を濡らすこの大粒の涙は、あなたへのまっすぐな思いが結晶した白玉なのでしょう。
あなたと過ごした幸せなひとときの形見として、私はこの白玉を誰の目にもふれぬよう大切に包んで、持って帰ります。
名残惜しさに落涙する目元をぬぐい、しっとりと濡れてしまった袖を歌う。
(涙の粒=白玉=真珠)
真珠は、海底にすむ貝の体内でゆっくりと時間をかけて、核を何層もの膜で覆うようにして作られる。
真珠の連想から、この和歌に歌われた二人の恋がどのようなものであったのかを想像することができる。

 

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