top of page

宮沢賢治「月天讃歌(擬古調)」

  • 執筆者の写真: 青木静香:Visual Artist
    青木静香:Visual Artist
  • 2019年2月18日
  • 読了時間: 1分

更新日:2019年2月25日


宮沢賢治(1896-1933)は、大正時代の詩人。児童文学作家。農業学校教師。法華経を篤く信仰し、美しい詩世界を展開する。代表作は『春と修羅』『注文の多い料理店』『銀河鉄道の夜』など。

「月天讃歌(擬古調)」 

兜の尾根のうしろより

月天ちらとのぞきたまえり

月天子ほのかにのぞみたまえども

野の雪いまだ暮れやらず

しばし山はにたゆたいおわす

決然として月天子

山をいでたち給ひつつ

その横雲の黒雲の

さだめの席に入りませりけり

月天子まことはいまだ出でまさず

そはみひかりの異りて

赤きといとど歪みませると

月天子み丈のなかば黒雲に

うずもれまして笑み給いけり

なめげにも人々高くもの言いつつ

ことなく仰ぎまつりし故

月天子また山に入ります

   

   兜の尾根のうしろより

   さも月天子

   ふたたびのぞみ出でたもうなり

月天子こたびはそらをうちすぐる

氷雲のひらに座しまして

無生を観じたもうさまなり

月天子氷雲を深く入りませど

空華は青く降りしきりけり

月天子すでに氷雲を出でまして

雲あたふたとはせ去れば

いまは怨親平等の

ひかりを野にぞながしたまへり


 

Comments


bottom of page