「有明」
起伏の雪は
あかるい桃の漿をそそがれ
青ぞらにとけのこる月は
やさしく天に咽喉を鳴らし
もいちど散乱のひかりを呑む
(波羅僧羯諦 菩提 薩婆訶)
▽漿【こんず】
うまい汁の意味。極楽浄土に実る桃の果汁の意味。
▽波羅僧羯諦/菩提/薩婆訶【ハラサムギャティ/ボージュ/ソワカ】
般若心経のマントラの一部。おおよその意味は、「(往きて往きて、彼岸に往き)完全に彼岸に到達した者こそ悟りそのものである、めでたし」
青木静香 意訳
昨夜降りしきった雪は、いまはもうすっかりやみました。
大地の起伏にそってなだらかに降り積もった新雪は
神々しい日の出をうけて虹色に輝き
まるで極楽浄土に実った桃の果汁をそそがれたようです。
晴れ渡った青空には、遠く有明の月が
白く、うすく、
まるでいまにも溶けてしまいそうな色で浮かび、この美しい景色を受け止めています。
(こくり、こくりと美酒をのむがごとく)
朝日と雪原と青空が織りなす虹色の祝福を
有明の月は
そして地上にひとりたつ私は
時をわすれて
(こくり、こくりと美酒をのむがごとく)
あたたかい高揚で内側が満たされていく喜びに
私は手をあわせ拝みました。
(ハラサムギャティ ボージュ ソワカ)
地上を這う修羅の私は未だ解を得ず、あなたさまにとっては一瞬だけの存在ですが、まことをもとめて往きてまいります。
迷い多き私の心を美しい朝の景色で抱きしめてくださり、感謝します。
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