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執筆者の写真青木静香:Visual Artist

宮沢賢治「有明」

更新日:2019年2月25日


宮沢賢治(1896-1933)は、大正時代の詩人。児童文学作家。農業学校教師。法華経を篤く信仰し、美しい詩世界を展開する。代表作は『春と修羅』『注文の多い料理店』『銀河鉄道の夜』など。

「有明」


起伏の雪は

あかるい桃の漿をそそがれ

青ぞらにとけのこる月は

やさしく天に咽喉を鳴らし

もいちど散乱のひかりを呑む

  (波羅僧羯諦 菩提 薩婆訶)


 

▽漿【こんず】

うまい汁の意味。極楽浄土に実る桃の果汁の意味。

▽波羅僧羯諦/菩提/薩婆訶【ハラサムギャティ/ボージュ/ソワカ】

般若心経のマントラの一部。おおよその意味は、「(往きて往きて、彼岸に往き)完全に彼岸に到達した者こそ悟りそのものである、めでたし」



 

青木静香 意訳


昨夜降りしきった雪は、いまはもうすっかりやみました。

大地の起伏にそってなだらかに降り積もった新雪は

神々しい日の出をうけて虹色に輝き

まるで極楽浄土に実った桃の果汁をそそがれたようです。

晴れ渡った青空には、遠く有明の月が

白く、うすく、

まるでいまにも溶けてしまいそうな色で浮かび、この美しい景色を受け止めています。

(こくり、こくりと美酒をのむがごとく)

朝日と雪原と青空が織りなす虹色の祝福を

有明の月は

そして地上にひとりたつ私は

時をわすれて

(こくり、こくりと美酒をのむがごとく)

あたたかい高揚で内側が満たされていく喜びに

私は手をあわせ拝みました。

​(ハラサムギャティ ボージュ ソワカ)


​地上を這う修羅の私は未だ解を得ず、あなたさまにとっては一瞬だけの存在ですが、まことをもとめて往きてまいります。

​迷い多き私の心を美しい朝の景色で抱きしめてくださり、感謝します。


 

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